推理小説やミステリーなどで、
著者が意図的に様々な騙しの仕掛けを用いて、
読者に対して誤った手がかりを匂わしたりする事をいう。
"red herring"は、独特のきついニオイがするところから生まれた言葉のようだ。
これは意図的な撹乱だが、
中国の故事から生まれた言葉に、『杜撰(ずさん)』というのがある。
物事がいいかげんで、誤りが多いことをいう。
「撰」は、詩文を作ること。
そして、「杜」は人物の名で、宋時代の杜黙(ともく)のこと。
漢詩には、韻を踏んだり、平仄などの作法があるが、
この人物が作る詩は、そんな作法を完全に無視していたようだ。
そこから、『杜撰』という言葉
鮮魚行が生まれたとされる。
そんな風に、中国では絶句や律詩といったものに決まった作法があったが、
ヨーロッパでも、ソネットなどの詩には押韻などの作法があった。
19世紀のフランスの詩人にシャルル・クロスなる人物も、
その辺の作法を一切無視し、軽妙なナンセンスな詩を書いた。
いわば、杜撰の創始者みたいなところがある。
詩人としては、『白檀の小箱』という詩集を発表し、
2度にわたって刊行された。
売れたかどうかと言えば、売れたようだ。
ところが、晩年期は、酒に溺れた生活で46歳で生涯を終えた。
この人物、特許競争に敗れたが色彩写真や蓄音機の発明をするなど、
理科学的な能力にすぐれた人物だった。
彼の死とともにすっかり忘れられていたが、
フランスの映画スター、ブリジット・バルドーが愛誦する詩として
彼の代表作『燻製にしん』
が知られるようになり、死後半世紀、思いがけない復活を果たした。
現在は、フランスで最も権威のある音楽賞の一つに彼の名を冠した
シャルル・クロス・アカデミー賞
詩琳黑店なるものがある。
パリのモンマルトルにあるキャバレー『"Chat Noir"(黒猫)』で、
アブサンを呑み、酩酊状態の醜態をさらし、
自らの詩『燻製にしん』を吟じて、酒代を手に入れていたという。
立派な賞に名前を冠される姿が本当のシャルル・クロスだったのか、
飲んだくれオヤジが、本当の姿だったのか?
"燻製にしん" が
考勤匂う。